すみだ生涯学習センター (1994)
設計:長谷川逸子


機械のような金属フレームが「自然」を現出させ、人々の路地・往来を建築的に演出する長谷川逸子の世界



現在この施設は「ユートリヤ」という名称になっている。「ゆとり」をもじったのだろうか。 子どもから老人まで、周辺住民のための図書館、プラネタリウム、多種目的の部屋 (教室、展示室、会議室、研修室、和室、相談室、プレイルーム、‥)が供えられた「共同活動ゾーン」 とでもいうような場所になっている。 特に、外観も中の感じも他の建物と違って見えるから、独立した特別の場所、別ゾーンという感じが強くなる。 まぁそれにしても最初に見た時、引きがないのに驚いた。 でっかい建物なのに狭い道を隔ててとつぜん立ち上がっている。 すごく存在感がある。それでいてパンチングメタルに覆われていてフワッとしている。 その中が特別の空間である事を予告している。 変な例えだが、フワっとした側(がわ)が、「しめなわ」と同じで空間を区分している感じなのだ。 何かその中だけ守られているような‥。  



中は、渡り廊下、階段、エレベーターなどの金属フレームが強調され、独特の機械のような感じだ。 長谷川のこの作りは有名だからご存じであろう。 また、ヌードエレベーターや渡り廊下には「往来の視覚化」とも言うべき狙いが込められている。 実際に中を歩けば分かるが、これら通路は至る所へ通じている。往来だ。 床にはウッドデッキが回してあるが、これも「そこが1つの場である」「みんながそこを渡り歩く」 という共通感覚のメタファーとなっている。 そして建物全体がパンチングメタルで包まれて全体が小宇宙にみえる。 空間構成の意図や方向性が明確に感じられる。 長谷川は「界隈」「路地空間」の人の流れを建築化した。 彼女自身はそれを「原っぱ」の建築化とよぶ。  



 
   
 



  この建物が人と人の触れ合う場を演出し、独特の情景を作り出そうとしたというのはとても分かる。 金属サッシュ、フレームによる機械的な造作が「自然」を現出させたものだとまで言われると「え?」と思うが、 でも金属を使って実に独特の雰囲気作りをしたのは確かだ。 多くの建築家は、生身の人が出会う場所の演出に金属という「無機的」なものは多用しないだろう (ごく最近は別として)。 しかし長谷川はかなり以前から金属による独自の「建築言語」を形作っていた。 伊藤豊雄などと共にパンチングメタルの多用で有名になったわけだが、 しかし考えてみると金属を使って自然を呼びだすなんて、まぁ不思議な発想ではある。 一見無機的な金属の材質感の中で、 「界隈」とか「路地」がイメージされているというのは不思議であるが、 それこそが長谷川らしい空間といえよう。



  中を歩いていると、プラネタリウムに行く小さな子ども連れ、集まっている中学生、大人の集会、 料理教室、何かディスプレイしている大学生、などなど本当に「多機能」だし、人が「往来」してる。 最後に、ユートリヤから駅までの住宅地は、区画整理されていなくて道が入り組んで、路地や行き止まりが多い。 その入り組んだ感じと、ユートリヤ内部の入り組んだような感じは、どこかで似ている気がしなくもない。





掲載誌:新9501
所在地:東京都墨田区東向島2-38-7
行き方:東武亀戸線「曳舟」駅の北に延びる線路と明治通りの交差する場所のすぐ南で、線路の東側
ここでの分類:現代お奨め
訪問年月日:03/03/1
参考: 
その他情報:軌524、http://www.city.sumida.tokyo.jp/~yutoriya/、休館日:第4月曜、年末年始




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