明治生命館 (1934)
設計:岡田信一郎
* 50才で亡くなった岡田信一郎の遺作 * 日本様式建築史上、最後で最大といわれる完成度の高い作品
いやもう、明治生命館は素晴らしいと聞いていたし期待が膨らんでいたから、 そのせいで逆に、実物を見ても「あ〜なるほど」くらいしか感想が無くなってしまった。 まず皇居の方から全体を眺めてほしい。 何といってもこのジャイアントオーダーと他の部分のなす構成やプロポーションが独特で美しい。 ジャイアントオーダーを最初に建築化したのは確かミケランジェロだったったか。 とにかくその後のバロックで用いられ、端正なものというより演出的な道具だったわけだけど、 ここでは演出と端正さが合わさっている。 他の銀行建築のジャイアントオーダーとは質的に何かが異なって見える。 何だろう?、他の銀行は「銀行」であり、これは「作品」に見える。 この建物は近くで見ると更に真価が分かる。装飾である。
私はNYでマッキム・ミード・アンド・ホワイトその他の秀作を沢山見てきたから、 様式建築にとって装飾がどれだけ迫力を増すか知っている。 但しそれはよく出来た装飾の場合だけだ。 日本の様式建築は軒並み(といっても良かろう)装飾の出来がいまいちで、 その為に迫力に欠けている。細部まできちっと彫刻され切っていなくて、 どこかぼやけているのだ。 しかし明治生命館は違った。気が稟とはりつめている。 これが様式建築にとってどれだけ大切なことか、 これをお読みの方も是非体験して頂きたい(既に知っていたら失礼)。
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岡田信一郎は東京芸大の建築科を育てた教育者として知られているが、 実作では様式の名手である。 彼による 大阪市中央公会堂 が竣工したのが1918年(大正7年)で、 明治生命館が1934年(昭和9年)である(岡田は完成を見ずに死んだ)。 中央公会堂がフリークラシックなのに対しこれはネオ・ルネサンス様式。 オフィスビルの古典主義的造形の最後で最高の作品といわれる。
明治生命館は古典の例にもれず三層構成されているが、 一層めはローマ石積み風でアーチ窓などがある。 二層目はご存じコリント式オーダーであるが、背後の窓の装飾にも注目して欲しい。 これが効いているのだ。 三層め、つまりオーダーの上は比例的構成の上で大変重要である。 細かい装飾が繰り返されているが、例えばライオンの顔が並んでいるのがご愛敬である。 ライトや扉、扉の周囲の細かい意匠にも注目されたい。 こういのをおろそかにしないから全体が生きてくる。 1F内部もよくできていると思う。別の世界に迷い込んだかのごとくである。 内部を見ていて、私は何だか「オアシス」という言葉を連想した。
この建物は幸せである。 それは重要文化財に指定されたからというより、 明治生命がこのビルを保全する姿勢が(今のところ)しっかりしているからだ。 しかし生命保険会社はいま軒並み逆ざやに苦しんでいるから、不安もある。 今後の成り行きを注視しよう。 この建物は何としても大過なく残って欲しいとおもう。
掲載誌: 所在地: 東京都千代田区丸の内2-1-1 行き方: 東京駅から皇居に向かうのが行幸通りだが、お堀を辿ってひとつ南の橋のたもとが馬場先門である。この向かい(東北側) ここでの分類: 戦前様式 訪問年月日: 03/03/1 参考: 『現代建築の軌跡』新建築1995年12月臨時増刊、新建築社 その他情報: 軌71、毎月第一日曜(1,5月は第二日曜)10:30-16:00見学入場可(1Fのみ)
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