国際子ども図書館 (2002)
設計:安藤忠雄


新旧の対比が見事な図書館改修・増築
空間の操作がシンプルで、ディテールもシンプルな美しさ



国際子ども図書館は、上野図書館のリニューアルである。 この様式建築の詳しいことは私は知らないのだが、 柔らかいフランス的な雰囲気を持っている(ように見える)。 平面はほぼ長方形である。 その棟の道路側と反対側(庭側)に、ベタッと新しい増築部分が張り付いた。 それがガラス張りの通路を形成している。 元の外壁が残っているので、ガラス張り通路からみるとそれが室内壁になっている。 第二にやったことは、1F部分に細長いガラスの箱を斜めに貫通させたことだ。 但しそれは外から見える部分だけである。 そこは、薄緑色の透明ガラス張り+金属フレームとなっている。 基本的にリニューアルでやった事はこの2点である。  



入口を入ると最初旧館部分を通り、次に安藤の設計した増築部分に入る。 増築部分は石材を使い、シンプルなのに豪華である。 「現代の神殿」というか、とにかくちょっと不思議な立派さである。 1Fの「子どものへや」は天井が白く発光し、光のシャワーを浴びている感じだ。 それが旧館の窓の古い感じのカーテンなどと共存している。 2F、3F廊下は庭に面して大ガラス張りで、反対側の壁が古い外壁で、 新旧の対比がはっきりしている。 特に3Fは天井部分からも光が差し込む広々とした空間で、なかなか気持ちがよい。 これが今回の増築のハイライトであろう。 3Fの本のミュージアムは、展示構成がよく知られている。 全体として見ると、新旧部分の対話のようなものがよく出ている。  



 
   
 



  この建物は新旧対比が大きなテーマだから、 石造の元外壁とガラスの壁窓や床とのとり合わせ、 元外壁とガラスが天井でどう出合うか、 外から見たときに古い外壁から新しいガラス部分が出っ張るようす、 新しく挿入されたエレベーター前の空間、 そういった感触を理屈なしで鑑賞できる。 特に庭側に出て建物を眺めると、ガラス面の向こうに古い建物のテクスチャがそのまま透けて見える。 これがこの建物のひとつの見せ場であろう。



  それはそうとして、ではこの建物(増改築)のどこが「安藤的」なのか?  新築部分の打ち放し壁の表情が何となく安藤的だ、と言えなくもないが、かなりこじつけ的である。 一方、形態の原則主義みたいなものがあって、それは安藤的といえるのかもしれない。 すなわち1Fには細長い箱を斜めに貫入するだけ。 増築は西面にガラスのヴォリュームを貼り付けるだけ(3Fが張り出してはいるが)。 やる事がシンプルで、全体を見た時の形態的意図がはっきりしている。 しかし恐らくは安藤にしてみれば、古びた原形を新しいものの中で生かし切ろうとする意志を持っていて、 その凝り方とか意志の強さに「安藤」が出ているという事なのかもしれない。



  この建物でディテールは決定的に重要におもえるが、空間の質はどのようにディテールに表現されているだろうか。 1,2Fの天井が壁と縁を切っていて間接照明が出ている所とか、 ガラス面のさんの付け方とか、北端の階段室のスラブの見せ方とか、3Fの天井の造作とか、 外から見たガラス室とEV室の収まりとか、北端のガラス室(階段室)と旧館部分の取り合いとか‥。 どこを見てもシンプルに見えるのだが、 それはシンプルさというものを違和感なく感じさせるディテールが工夫されている為だと思う。 私は安藤の研究者でないのでよく分からないが、 安藤のディテールというのは黒沢やキューブリック監督の映画撮りのように、 検討の上にも検討を重ねたような刻苦とでもいうような跡が感じられるのかもしれない。 それにしても住吉の長屋とかかつての住宅のディテールとは印象がかなり違うけれども (写真でしか知らない建物が多いが)。



  安藤の近作の公共建築では、かつて彼の空間に立ちこめていた 「男の沈黙」とかある種の「重たさ」が、蒸留されて希薄になっているように感じる。 それとともに、私にとって何が「安藤らしさ」なのか良く分からなくなってきた。 兵庫県立美術館 とか サントリー天保山 などには「重たさ」とは違った別の何かが表現されたり考慮されている。 最近は外国でも凄い人気で美術館を幾つも手掛けているが、 肝心の「安藤らしさ」の正体が見えてこない。計画面では色々と工夫があるだろうし、 その凝り方に安藤が出ていると言えるのかも知れないが、 空間的に感得されるものとしての「らしさ」の正体が見えてこない。



  ど〜も私の勝手な感触でいうと、空間的に直接感得されるようなものとしての「らしさ」は無くなってしまって、 空間の作り方の意志とか狙いの中に、つまり一段メタな部分で「らしさ」が出ているのかな、と思う。 でもそれって、一建物鑑賞者としての私からみるとちょっとつまらない事でもある。 直接「空間的」なものを見たい味わいたい、という欲求が私には強い。 だからこのHPの名前にも「味わい」と付けた。 まぁこれは、ご覧になった方が判断してください。 私は人の書いた安藤論をちゃんと読んでないから、人がどう言っているかは良く知らない。



  最後にひとつ。この建物、中は気に入ったが、西面を外から見ると「あれ?」と思った。 古い建物と総合されたデザインという意味で、 西面の外観(全体的なカタチの構成)は難しかったのではないだろうか。





掲載誌:新0207
所在地:東京都台東区上野公園12-49
行き方:東京国立博物館の敷地の北西を走る道沿いにあって、その奥が東京芸大である
ここでの分類:戦前様式、改築、現代
訪問年月日:03/02/28
参考: 
その他情報:http://www.kodomo.go.jp/、休館日:月曜日、5月5日を除く国民の休祝日、年末年始、奇数月の第3水曜




tate_aji




2003 Copyright. All rights reserved トップ