ベルコリーヌ南大沢 (1990)
設計:内井昭蔵(マスターアーキテクト)


南欧風で微地形的な差異の発生を重視した住棟(とその配置)は、モダニズム時代の団地と明らかに違う



多摩NTの一角、南大沢に有名な団地がある。 内井昭蔵がマスターアーキテクトを務めたベルコリーヌ南大沢である。 この団地は団地全体の統一イメージとして南欧風あるいはイタリアの山上都市を参照している。 そういうテーマ性の上に、 都市研究所、アルセッド、坂倉、市浦、現代計画などそうそうたる設計ファームによる、 単なる団地を越えた(?)景観・街並みの饗宴となっている。 高層棟は大谷幸夫による。  



まぁ一応そういう事なんだけど、行ってみるとそんなに驚きもしなかった。 住棟にしても、すげェ〜デザインがなされているというよりは、 外国のポストモダニズムの団地ならいかにもありそうなのを日本でやってる、ていう感じだった。 ただ印象的だったのは、微地形を重視していて、 湾曲した歩行者路が取り残した部分をこんもりした森にしたり、 そういう庭園的な小さな差異にみちた配置の仕方が、モダニズムには無い雰囲気をもたらしている。 住棟配置もできるだけランダムさを入れて画一的に見えないようにしているし、 住棟に段差や形態の差異を持ち込んで複雑に見せたりしている。 単に住棟のデザインがテーマ的だという以上に、この団地はモダニズムから離れようとしている。 小川沿いのストリートファニチャーやサイン計画にも配慮のあとが伺われる。  



しかし高層棟で如何にもスケールオーバーしたものがある。 実は、開発で土砂を削った所は地盤が良いので高層棟が建ち、 削った土砂で埋めた部分は地盤が悪いから低層棟が建っているのだそうである。 そのように単にデザイン的に決定できない部分があって、 それもベルコリーヌ南大沢の景色の一要因となっている。 また、南欧の傾斜面住居を思わせるような丘の一角がある。 他の場所や時代を参照することはポストモダニズムの特徴であるけれども、 この団地を含む多摩NTという場所ではそれが更に徹底されている。 「テーマ」と「シミュレーション」は、ここ多摩NT全体を貫いている。 それは、広く言えばディズニーランドや ラーメン博物館 などとも通底している。 すなわち、空間にテーマを設定する事で、人にその中にいる感じを味わわせているのだ。 要するに、ポストモダニズム建築云々というよりもっと広い視野が、ここでは必要とされている。  



 
   
 



  どんなに優秀な設計力を動員しても、 ベルコリーヌ南大沢は南大沢駅のすぐ北でみたキッチュな店舗と通底している。 違う時代や場所を借りて、 そもそも「場所」でなかった所に「場所」を捏造しようとする意志が働いているからだ。 ここが作られた郊外都市であるという事を、どうしても意識させられる。 もっともベルコリーヌ南大沢を南欧風にしようと発案したのは内井昭蔵ではなく、 建て主である住宅整備団体(名前は知らないが)であったそうだ。 まぁ別に誰が考えたっていいけど‥。



  作られた「場所」が理想郷であろうとするとき、そこには狂気もまた発生する。 この団地はドラマ「誰にも言えない」の舞台であった。





掲載誌:文9005/jt9005/日900416
所在地:東京都八王子市南大沢5丁目
行き方:京王相模原線「南大沢」駅の北側に降りたって西に歩いたところ
ここでの分類:現代
訪問年月日:03/02/26
参考:『建築MAP東京』TOTO出版、1994,10+1/1994春「特集 ノン・カテゴリーシティ」
その他情報:M223




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