国立国会図書館関西館 (2002)
設計:陶器二三雄
* 書庫を地下に埋める。外観は現代的だが、楚々として控えめ
この図書館は書庫を地下に埋めている。埋められた部分が芝生と天窓になって続いていて、 その先に入口となっている管理棟が見える。 敷地全体から見ると地上に建っている部分が小さく控えめである。 手前がず〜っとフラットで、入口に至るアプローチが長いのもこの建物の特徴だ。 この辺りは関西学研都市の中でも学術研究の中心地であり、すぐ隣にATR (国際電気通信基礎技術研究所)がある。 ちなみにATRの建物は古典様式を連想させる列柱スタイルで、 いかにも「ここは知の殿堂である」と威張っているように見えた。
まだ学研都市全体が立ち上がりかけている途中なので、 図書館が最終的に街全体の中でどのような見え方になるのか、予断はできない。 しかし広々とした景観に溶け込むべくゆったりと作られているのは見てのとおりである。 この建物が控えめなのは、単に「建物の存在を消したかった」 という最近よくある言説をなぞっただけではない。 機能的に言っても、この図書館は一つの情報拠点に過ぎないのだ。 将来電子化がもっと進めば、利用者はネットから要望を出すだけで資料を手に入れられる。 ここは人が殆ど直接来ない、情報提供業務の拠点になるだろうと考えられているのだ。 だから都心部から来にくい場所に立地していても、サービス上問題ないと考えられた。 そういう性格の建物にふさわしい控え目さというか目だたなさ (という存在感)を、この図書館は発散している。
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設計の方針としては、まずとにかく書庫を地下に埋めたかったのではないだろうか。 目立つ建物にしたくないから、控えめな管理棟を奥まった場所に置いてみる。 管理棟までの長いアプローチを、この図書館の性格付けとする。 手前のスペースには地下に書庫がど〜んと眠っているのだが、 上は単に芝生にせずに、直下に閲覧室を持ってきてその採光を兼ねたらどうか。 まぁ例えばそんな風に発想したのかもしれない。 背後は小高く雑木林が続く。ちなみにこの雑木は最後まで残るのだろうか? コンペの為に陶器氏が見に来た時には、この図書館の敷地も雑木林だったそうだ。 そこをざっくり削り取ってしまう「自然破壊」に設計者も胸を痛めたらしい。 開発と自然が共存できないことが、設計の前提に含まれていた。 こうなったら、多少ウソっぽくても雑木林の記憶を(人工的に)建物内に残すしかない。 管理棟手前には雑木林の中庭があるが、これは後から人工的に作ったものらしい。 管理棟4Fのカフェテリアの前には樹木が列になって植えてある。 自然の「操作」が不可避なら、意図的に操作された自然を利用してゆくしかない。 そういう思考があったのではなかろうか。
建物はガラスと金属フレームで、見るからに現代性を露わにしている。 私がまず感心したのは、入口を入った階段スペースから見た内部全体が、 たいへんプロポーション良く作られている事だった。 それが石材など贅沢な建材の質感と相俟って、落ち着いてリッチなエントランス空間を構成している。 管理棟4Fのカフェテリアの内部空間だって、 単純だけどきれいなプロポーションだと思う。 次に感心というか面白かったのは、ドアやガラス窓、隔壁などのディテールである。 いかにも特注で金がかかっており、しかしそうとは悟られない質素さを持っている。 まさかYS11の場合のようにドアノブ1つが10万円するわけはないだろうが、 批判的に言えば妙な散財である。 B1Fの閲覧室のガラス窓だって、大きな一枚ガラスにする為にそれなりの工夫がされている筈だ。 閲覧室の自然採光はこの図書館の目玉みたいな特徴だが、 それをわざわざ意識する利用者は殆どいないだろう。 単に「この建物は現代的だ」と言うだけで済まない、商業建築にも他の公共建築にも見られない、 控えめでかつ独特の贅の尽くし方をしている、そんな感じがする。
陶器氏はこれまで何度も国際コンペに参加したが、あまり日の目を見なかった。 それが、一気に脚光を浴びた。確かパリの国会図書館を建てたドミニク・ペローも、 このコンペに参加していたのではなかったか。ペローはあまりに「コンセプチュアル」だから 通らなかったのかもしれない。 とにかく陶器氏は、 現代的なコンセプトを持ちながらも実質的な案を淡々と作り続ける人のように思えた。 恐らく誠実な人なのだと思う。
掲載誌: 新0211 所在地: 京都府相楽郡精華町精華台8-1-3 行き方: 例えばJR「祝園」および近鉄「新祝園」から36番のバスで「国立国会図書館」下車 ここでの分類: 現代 訪問年月日: 2003/02/12 参考: 新0211 その他情報: http://www.ndl.go.jp/
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