新横浜ラーメン博物館 (1994(開店))


チキンラーメンが生まれた昭和33年をテーマとするフードテーマパーク第一号
うそっぽさを突き抜けたド迫力のリアルさ



新横浜ラーメン博物館は、いわゆる「フードテーマパーク」の先駆けである。 1991年に岩岡洋志を中心にプロジェクトがスタートし、1994年に開店したものだという (http://www.raumen.co.jp/top/toha.htmより)。 この成功により、情景を作るこうした手法が商業の世界で脚光を浴びて、 フードテーマパークなる造語もできた。 チーム・ナンジャ のような企画集団が登場し、 横濱カレーミュージアム などを作った。  



新横浜ラーメン博物館には地下に大きな空間があって、 そこにインスタントラーメンが生まれた昭和33年という時代の下町の情景を非常にリアルに再現している。 建物や看板、電気メーター、そして博物館自体の階段のコンクリートなど、あらゆる小道具が エージング(古くみせかける)されたり、古いものをそのまま持ってきている。 ラーメン屋は常時およそ8軒入っているが、その他にタバコ屋・駄菓子屋・露店・飲み屋などもあり、 当時の姿の警官が見回りをしている。  



実際、階段の手すりの古さなどはハンパじゃない(さすがにラーメン屋の中は現代風だったけど)。 狭い路地に人が密集している。昭和33年を示す書き割りの中を現代の群衆が行き交うと、 群衆の人いきれも古い時代の一部となり、古い時代が現出したような錯覚に陥る。 50代以降の人は本当に昔を思い出すかも知れないし、 昭和30年代なんて全く知らない20代の人でも何かを感じるに違いなく、それは新鮮に感じられると思う。 人いきれが感じられるこの密集度はここでの演出の大きなポイントとなっている。 消防法だけは気になるが‥。  



 
   
 



  エージングは、恐らく映画のセット制作の手法からきている。 このような手法・技術は単にフードテーマパークだけでなく、 大阪住まいのミュージアム の江戸時代の民家制作にも使われている。 とにかく、1990年代以前に作られた如何にも借り物だとわかるようなチャチな書き割りとは質的に変わっている。 ありがちなテーマパークのうそっぽさやよそよそしさを突き抜けてしまっている。



  ここでは架空の<世界>が作られていて、その世界にはラーメン誕生の物語が付与されている。 なぜ架空の空間と物語が必要なのか?。西欧のパブでも物語(テーマ性)が手としてよく使われている。 テーマの使用は、周知のようにディズニーランドにもっとも良く現れている。 ディズニーランドは、郊外生活者に物語性を通じてかりそめの共同性を与える仕組みだと言われている。 郊外生活者というのはよく言われるように故郷喪失して地縁的な共同性を持たない人々だ。 現代の消費者にはそういう人が大勢を占め、 そういう人々にかりそめの共同体感・連帯感を与える事が、 商業空間の成功の秘訣であると言われているのである (私はそれを「連帯感」と呼ぶよりは、危機にひんした近代的主体性の修復作用だと思うのだが、 そういう難しい話はまた稿を改めておこなう)。



  何もそれは物語の使用だけにとどまらない。 1996年の キャナルシティ博多 に始まる巨大吹き抜け空間=囲われた空間という仕掛けも、 そこに集う人々の間にかりそめの共同性・連帯性を感じさせる仕掛けであると言われた。 私も今回の横浜訪問で クイーンズスクエア横浜 を訪れた。色々な人々が行き交う様が、 あたかも何か目的を持って人々が有機的に繋がっているかの如く感じられた。 これとラーメン博物館は一見まったく違うけれど、かりそめの共同性・連帯性を演出している点で、 じつは共通した空間的仕掛けになっているのだ。 経済成長時代の我々にとって、かつて都市とは「俯瞰されるもの」だった。 それはフーコーの言う近代のパノプティコンの視線に一致する。 東京タワーのような高いところに人気が集まった。 でも、ネットワーク化した現代社会に住む我々には俯瞰の意味性が薄れている。 それに代わって我々はかりそめの連帯性を感じたいと思っている。 それが「物語」を欲し、呼び寄せている。



  商業建築に興味を持つ建築史家の中川理(なかがわおさむ)氏は、 このような商業空間と「実景」という概念の関係を問題にしている。 こういう空間を行き交う人は、自分が物語りや別世界の一部となっている事を自分でもよく自覚している。 意識的にある景色の一部となる事を、オーギュスタン・ベルクは「実景」と呼んだのであった。 ベルクは実景こそが近代を超克する新しい意識の現れだと言ったのだが、 現在のところそれは商業空間の手法として最もよく現れている。 その事は、ベルクの予想が外れた結果なのか、それともこの商業空間の手法が更なる発展の一歩なのか、 私達はまだ答を知らないのである (それに関して私は クイーンズスクエア横浜 の記載の中でちょこっと自分の考えを述べている)。





掲載誌: 
所在地:横浜市港北区新横浜2-14-21
行き方:JR新横浜駅徒歩5分
ここでの分類:商業建築
訪問年月日:03/02/26
参考: 
その他情報:http://www.raumen.co.jp/




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