横浜赤レンガ倉庫 (2002)
設計:新居千秋(保存・改修)


古い倉庫の再生利用による商業施設と公共施設。古さを損なわない配慮あり
「内装による新旧の対比」という時のその「新」の内容が、21世紀的に思える



この赤レンガ倉庫は、遠くから見ると色がくすんで黒っぽく、商業施設の派手さが感じられない。 レンガの色のくすみをもっと取って、 旗やのぼりを立てないと商売にならないのでは?、と他人事ながら心配した。 ま、でも良く言えばシブい。 中にはいると結構にぎやかでテナントの活気があるが、それでもなかなかシブさのあるインテリアである。  



最初にこの倉庫が出来たのは、2号館が1911年(明治44年)で、1号館が1913年だそうだ。 2号館は 旧横浜正金銀行本店 の妻木頼黄が設計している。 それ以来倉庫として活用され『ハマの赤レンガ』として知られてきたが、 横浜市が1992年に国から取得した。 市は再生利用の方法を検討してきたが、 小さい1号館はホールなどコミュニティ施設を作り、 大きな2号館は民間業者(株式会社横浜赤レンガ)が運営しテナントを入れる事になった。 新居千秋が内部改修工事を担当し、2002年にオープンの運びとなった。 古い建物の再生利用の好例である。  



まず最初敷地を見て驚くのは外構計画が非常にシンプルな事だ。 倉庫以外の敷地は、だだっ広く敷石が敷き詰められている。 倉庫2つだけがポツンと見えて、あたかも「おかずはこれだけです」と言っているようだ。 古い建物をあくまで引き立てる、それ以外の余計な要素は持ち込まない、 という固い信念があったに違いない。 施設の全体構成は比較的シンプルだ。 店舗のある2号館倉庫は全体が幾つかの区画に分かれていて隔壁がある。 そこを廊下が貫通し、エレベーターとエスカレーター、階段室が配置される。 あとはテナントの規模・用途によって多少変化しているだけだ。 1号館も部屋とホールが割り振られているだけだから、 基本的にそんなにバリエーションはない。 外構計画もシンプルの極致だから、要はこの施設の最大の見せ場は、 建物に仕組まれた新旧の材質感などの対比だと思う。  



 
   
 



  そこで、材質感をまとめてみよう。 まず入口は、薄緑に着色した透明ガラス・金属フレームによるものである。そういう組合せは、 国際子ども図書館 、大阪城のエレベーター、 大阪中之島中央公会堂 の入口、などなど多くの歴史的建築物の改修で使われている。最近のはやりだ。 誰が最初にこのようなデザインを始めたのか?、ヘルツォーク&ド・ムーロンか?  とにかく外国で始まったんだろうけど、新旧の対比のさせ方としては納得できる。 尤も、似たような雰囲気のガラス・金属の使い方は、 大阪の淀屋橋南岸に新築された建物(みずほ銀行?)や、 ご存じ 新・丸の内ビルディング の一部でも採用されている。つまり必ずしも古いものとの対比だけで使われるとは言えない。



  内部だが、倉庫内部の隔壁にレンガが露出している。全体にレンガ部分が多い。 それにしても補修の跡も目立たずよくこれだけ立派にレンガが残ったものだ。 レンガが「暖かみ」のあるテクスチャであり、 逆に挿入した部分はガラスと金属ののっぺりした無機質的な感じである。よく合っている。 エスカレーターやエレベーターが機械を露出させているが、 これも無機的・機械的で古い建物との対比がうまい。



 
   
 



2号館の天井材は、コルゲート材を更に湾曲させて作ってある。 これと、柱、梁、隔壁の金属扉などが、全て同じグレーイッシュな緑に塗られている。 これらグレー緑の素材が、煉瓦、ガラス・金属のフレームに対し第三の構成要素となって、 倉庫全体の統一感を醸し出している。 いちばん感心したのは、これらの緑の部分のどこまでが元の部分でどこからが新しい部分なのか、 皆目分からないように作ってあることだ。 天井材は実はすべて新しい筈だが古いようにも見える。 隔壁の金属扉はいかにも古くからのものである。 これ以外にあと印象に残るのは、中央階段である。ガラスに囲まれた21世紀的デザインであった。  



私は2001年3月にニューヨークのチェルシーマーケットを視察した (ここを参照)。 ここも古い煉瓦倉庫を改造した店舗なのだが、 古ぼけた煉瓦の質感が商店街に合わないと思ったのか、 煉瓦は薄めに白っぽく色を塗られていた。 実際、横浜赤レンガ倉庫と比べると煉瓦の傷みが激しいようで、 「素肌」を見せるのをためらうのも一応は理解できる。 では何もかも新しくしてしまったかというと、逆に天井なんかは昔っぽい。 しかし、変な(失礼!)アート的なオブジェがあったりして、 横浜赤レンガ倉庫と比べると、何というか、そんなに統一性を感じさせない。 最も違う点はチェルシーマーケットは外観を見せない事だ。 いずれにせよ、興味ある方はNYに行かれたら見ていただきたい。  



結論的に言えば、 横浜赤レンガ倉庫は赤レンガの特性を重視し、よく生かした再生事例だとおもう。 新旧の対比という時のその「新」の内容が21世紀的に思えて新しい気がした。





掲載誌:新0206
所在地:神奈川県横浜市新港町
行き方:みなとみらい21の東にある埠頭の東端。横浜港大さん橋国際客船ターミナルの西
ここでの分類:戦前近代、商業建築
訪問年月日:03/02/27
参考: 
その他情報:http://www.yokohama-akarenga.jp/




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